[Q1-1]
クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とはどのような取引でしょうか?
 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは、信用リスクを対象とする金融派生商品であるクレジット・デリバティブの最も基本的かつ代表的な商品です。 取引の外形は「保証」や「信用保険」に類似し、補償を受ける当事者(保証でいう被保証人)は、取引の対象となる信用リスクを、補償を提供する当事者(保証でいう保証人)に移転します。 信用リスクを取引する伝統的なツールとしては、債券や融資、保証などが挙げられますが、CDSにはこれらの商品と密接なつながりがあります。  CDSそのものは信用リスクを移転するための“道具”のひとつですが、この道具を用いて、企業や国家から証券化商品まで、幅広い種類の信用リスクを移転することが可能となります。 CDSによって移転される主な信用リスクを大まかに分類すると、以下のとおりです。

  信用リスク 一般的な名称
@ 企業など シングルネーム
CDS (コーポレート)
Wal-Mart社を参照するCDS
Nestle社を参照するCDS
A 国家、
政府関係機関など
シングルネーム
CDS(ソブリン)
日本国を参照するCDS
米国を参照するCDS
B 証券化商品など CDS on ABS a) RMBS(住宅ローンを裏付け)
b) CMBS(商業用不動産を裏付け)
c) ABS(リース債権などを裏付け)
d) ABS CDO(他の証券化商品を裏付け)

 CDSについて議論を行なう場合、どのような信用リスクを対象とするCDSについて議論をしているのか、はっきりと認識することが重要となります。CDSのパフォーマンスは取引の対象となる信用リスクのパフォーマンスと直結し、企業の破綻が増加すれば上記表の@において、証券化商品のデフォルトが増加すればBにおいて、それぞれクレジットイベントが増加することになります。

 本Q&Aでは、ディーラー間の取引量の大部分を占める@とAのシングルネームCDSを中心に説明を行ない、必要に応じてBなどについても触れることとします。



[Q1-2]
典型的な取引の構成を、具体例を挙げて説明して下さい。
 たとえば、株式会社Cの社債10億円を保有しているAが、この破綻リスク(信用リスク)を外部に移転するためにCDSを利用し、金融機関Bとの間で現物決済型のCDSを締結する場合を考えます。

 CDSの取引期間を5年、AがBに支払うプレミアム(保証料相当額)を年率2%とすると、CDSの取引期間中にC社が破綻などしなければ、AはBに対して毎年2000万円(10億円×年率2%)のプレミアムを支払うことになります。

 他方、上記取引期間である5年の間に、C社に債務不履行や破産などのクレジットイベントと呼ばれる事由が発生した場合、BにはC社の社債をAから引き渡されることを条件に、(その時点の実際の時価に関わらず)額面額の10億円を支払う義務が生じます。

 C社が破綻した場合、C社が発行する社債の価額は大幅に下落していることが予想されますが、上記CDSにより、AはC社破綻による損失を免れ、他方、Bは損失を負担することとなります。

 以上の契約を図示すると下記のようになります。



 なお、上記例ではAがC社の発行する社債を保有しているという前提ですが、社債などを保有せず債権関係のない当事者がCDSを取引することも可能です。



[Q1-3]
CDSの基本的用語について簡単に説明して下さい(取引当事者など)。
 CDSの契約書は、ISDAのマスター契約(ISDA Master Agreement)やISDAの用語定義集(Credit Derivatives Definitions)などに準拠して作成されることが一般的です。取引の基本構成自体は比較的シンプルであり、標準化が進んだ現在では契約書も相当程度簡素化されています。標準化された契約内容を理解した者同士においては、共通の言語の存在によって理解の食違いが回避されるなどのメリットがありますが、他方、標準化された契約内容に慣れていない場合には、さまざまな専門用語がCDSの仕組みを理解する上でのハードルになることも考えられます。また、中には、用語定義集などで定義はされていないものの、多くの取引参加者に一般的に利用される用語もあります。

 ここでは、そのような用語のうち、各Q&Aに頻出するいくつかの用語を解説します。なお、詳細については各Q&Aもご参照下さい。

「プロテクションの買い手」(Protection Buyer)
 CDS契約の一方当事者であり、クレジットイベント発生時に、プロテクションの売り手から約定の金額を受け取る権利を有する当事者です。単に買い手/Buyerと言うこともあります。

「プロテクションの売り手」(Protection Seller)
 CDS契約の一方当事者であり、クレジットイベント発生時に、プロテクションの買い手に対し約定の金額を支払う義務がある当事者です。単に売り手/Sellerと言うこともあります。
 なお、プロテクションの買い手と売り手については、下記留意点をご参照下さい。

「クレジットイベント」(Credit Event、信用事由)
 CDS契約においては、イベント対象債務にクレジットイベントが発生し、所定の手続きを経てそれが認定された場合、現物決済や現金決済などの決済が行なわれます。各取引においてクレジットイベントとしてどのような事由を指定するかは、契約当事者が自由に決定しますが、コーポレート(企業)を対象とするCDSにおいては、一部の例外を除いて、@支払不履行(Failure to Pay)、A倒産(Bankruptcy)、Bリストラクチャリング(Restructuring、債務の条件変更など)の3つのイベントを指定することが一般的です。

「参照組織」(Reference Entity)
 プロテクションの対象となる企業や国などの主体です。参照組織やそのイベント対象債務にクレジットイベントが発生した場合に、CDSのクレジットイベント決済が行なわれます。

「イベント対象債務」(Obligation)
 プロテクションの対象となる債務です。通常、具体的に社債の銘柄やローンの明細などを特定するのではなく、用語定義集に定められている選択肢の中から、「社債」(Bond)や「借入債務」(Borrowed Money)といった「債務の種類」と、通貨や支払優先順位といった「債務の性質」を当事者が指定します。

 たとえば、イベント対象債務として「社債」(Bond)と指定した場合、参照組織が発行する社債のうち、「債務の性質」の条件を満たしたものに対して支払不履行があった場合にクレジットイベントが認定され、クレジットイベント決済が行なわれることになります。なお、CDSと保証の差異の一つとして、保証の場合には一般に具体的な債務を対象として特定するのに対し、CDSの場合にはこのように社債一般やローン一般を対象とすることが可能である点が挙げられます。

 どのような債務をイベント対象債務として指定するかについての市場慣行は地域によって異なりますが、現在本邦においては、イベント対象債務として「借入債務」を指定することが市場慣行となっています。この場合、債券およびローンのほか、預金や信用状に基づく貸付などについても、イベント対象債務に含まれることになります。

「引渡可能債務」(Deliverable Obligation)
 現物決済の場合には、プロテクションの買い手はプロテクションの売り手に対して、一定の条件を満たす債権を引き渡す必要があります。現物決済においてこの引渡しの対象となりうる債権を「引渡可能債務」といいます。引渡可能債務についてもイベント対象債務同様、当事者の合意により予め用語定義集から「種類」と「性質」を選択することになりますが、日本の市場においては「種類」として「債券またはローン」(Bond or Loan)を選択することが一般的です。イベント対象債務は「借入債務」であることから、預金の不払いなどもイベントの対象となりますが、引渡可能債務は「債券またはローン」であり、預金については引渡しの対象とならないこととなります。

「クレジットイベント決済」(Settlement)
 参照組織のイベント対象債務についてクレジットイベントが発生し、予め合意された所定の手続を経ることによりそれが認定された場合に、CDSの契約当事者間で行なわれる決済をいいます。単に「決済」というと、プレミアムの支払いや、CDS契約当事者の倒産等を理由とするCDS契約の早期終了に基づく取引の解消および清算を指すこともあるため、注意が必要です。


<留意点:プロテクションの売り手とプロテクションの買い手
 「プロテクションの売り手」と「プロテクションの買い手」については、上記のとおり、売り手が信用リスクを負担するサイドで、買い手が信用リスクを移転するサイドとなります。単に英語でSeller/Buyer、日本語訳で売り手/買い手、と呼ばれる場合も多く、また報道などにおいては、単に「CDSの買い手」「CDSの売り手」と述べられることもあるため、それぞれ「プロテクションの買い手(リスクの売り手)」を指すのか、「プロテクションの売り手(リスクの買い手))を指すのか留意しながら読む必要があります。
 社債などの一般的な金融商品の場合、買い手が信用リスクを負担するサイド、売り手が信用リスクを移転するサイドなので、CDSは表現として逆になります。


 今回の金融危機との関連では、たとえば、欧米の投資銀行・商業銀行が組成して外部に販売せずに保有していた住宅ローン関連の証券化商品のスーパーシニア(最優先部分)のリスクについて、モノライン保険会社などからプロテクションを買った事例があります。この場合、欧米の投資銀行・商業銀行が「プロテクションの買い手」で「投資商品の販売サイド」、モノライン保険会社などが「プロテクションの売り手」で「投資商品の購入サイド」となりますが、「モノライン保険会社が証券化商品を販売した」という表現も報道や書籍などで見受けられます。「投資商品」という観点で見るか、「プロテクション」という観点で見るかによって売り手と買い手が逆になり、表現として誤解が生じやすく、特に注意が必要です。



[Q1-4]
CDSの基本的用語について簡単に説明して下さい(クレジットイベント決済)。
 クレジットイベントが発生した場合、クレジットイベント発生の通知や同発生の認定などを経た上で、CDSのクレジットイベント決済が行なわれることになります。

 決済については、現物決済(Physical Settlement)と呼ばれる決済手段と、現金決済(Cash Settlement)と呼ばれる決済手段があります。いずれの方式を採用するかは、当事者がCDS契約締結時に自由に決定することになりますが、ディーラー間などのマーケットで一般に行なわれるCDSにおいては、契約締結時には現物決済が採用されることが通例です。背景としては、現物決済であれば現金決済に伴なう価格評価の妥当性に疑義が出る可能性を排除できることや、保有資産に対してヘッジを行なっているプロテクションの買い手の立場では現物の引渡しを希望するケースが多いこと、プロテクションの売り手の立場では損失を一時点の価格で確定させてしまいたくないという意向が見られることなどが挙げられます。

 他方、近時は、CDS契約締結時においては現物決済を採用し、実際にクレジットイベントが発生した後には両当事者がプロトコル(Protocol)方式によって契約内容を修正し、現金決済をベースにした決済を行なう例も多くなっています。2008年9月にLehman Brothersが破綻した場合においても、決済方法の修正を行なうためのプロトコルが用意され、多くのマーケット参加者がこの方式による決済を行ないました。

 なお、上記はマーケットで行なわれている標準的なCDSの決済についての説明ですが、シンセティック CDOなどの仕組商品の場合には、累積損失が一定金額に達した後に一括して決済を行なう必要性などの仕組組成上の理由から、現金決済が採用されることも多いものと思われます。

 以下、各決済方式について、簡単に説明します。

「現物決済」(Physical Settlement)
 プロテクションの買い手がプロテクションの売り手に引渡可能債務の引渡しを行なう代わりに、プロテクションの売り手がプロテクションの買い手に引渡可能債務の額面金額を交付する決済方法です。

 たとえば、Q1-2の図の例において、C社にクレジットイベントが発生した場合、C社発行の額面10億円の社債をAがBに引き渡す代わりに、BはAに対して額面金額10億円を交付することになります。


「現金決済」(Cash Settlement)
 現物決済とは異なり、債権債務を引き渡すことなく、単にプロテクションの売り手からプロテクションの買い手に現金のみを引き渡すことにより決済が行なわれる方式です。

 たとえば、Q1-2の図の例において、C社にクレジットイベントが発生した場合、 (予め契約で定められていた)計算代理人がC社の社債の評価額をディーラー数社に問い合わせ、その結果100円当たり25円と評価額が決定されたとすれば、BはAに対して7.5億円(10億円×(100-25)÷100)を交付することになります。


クレジットイベント決済の新標準
 上述のとおり、現物決済の場合には価格評価(valuation)が不要などのメリットがあり、過去10年余りにおいては現物決済が一貫して市場のスタンダードでした。

 しかしながら、@特に決済額が小さい場合や、インデックス取引の場合、現物決済の事務の手続が煩瑣であること、ACDS契約上、プロテクションの買い手は必ずしも引渡可能債務の保有者であるとは限らず、決済のためにその債務を市場から調達してくる必要があるところ、そのような調達の需要により引渡可能債務の市場価格が急騰する可能性(ショートスクイーズの発生)に懸念が生じたこと、などから、近時は現金決済をベースとした新しい決済方法がプロトコル方式によって事後的に採用されることがあります。

 この新しい決済方法においては、主要ディーラーが参加する入札(Auction)によって評価価格を決定し、この価格に基づいてすべての取引が現金決済されます。現物決済を希望する当事者は、ディーラーを相手に現物決済を行なうことも可能です。この方式により、@これまでの現物決済におけるショートスクイーズの発生などのデメリットが解消され、Aこれまでの現金決済における評価価格の決定の手続に伴なう問題が軽減されるというメリットが期待され、同方式が徐々にマーケットにおける主流になりつつあります。2009年1月現在、ISDAはこの新しい決済方法を正式に採用すべく準備を進めています。


クレジットイベントの認定
 クレジットイベントに該当すると思われる事由が発生した場合、標準的な契約においてはプロテクションの買い手または売り手が相手に発生した事実と情報源を通知し、通知を受けた側が異を唱えない限り、その時点でクレジットイベントが認定されます。ある参照組織に関連してクレジットイベントに該当するとの市場のコンセンサスが存在する場合、ISDAは通知の実務を軽減するための手続きなどを用意しますが、クレジットイベントはあくまでも契約当事者が(場合によっては、訴訟手続を通じて裁判所が)個別に認定するものであり、ISDAその他の機関が統一的にクレジットイベントの発生を認定するものではありません。

 クレジットイベントのうち、破産(Bankruptcy)、支払不履行(Failure to Pay)については比較的明確ですが、リストラクチャリング(Restructuring)については、債務再編の形態も種々あることから、その認定が困難な場合がありえます。ただし、多数の市場参加者が取引を行なっている流動性の高い銘柄については、仮にリストラクチャリングへの該当が疑われる事象が発生した場合には、ISDAの各種コミッティーを通じてその該当性について検討が行なわれ、一定の方向性が示されるケースが多いかと思われます。

 なお、2009年1月現在、クレジットイベントの該当を市場参加者で構成される委員会において議論・決定し、この決定をすべての取引において適用するという商慣行を、上述の新しい決済方法の正式な導入と同じタイミングで導入する方向で議論が進められています。



[Q1-5]
日本のインターバンク市場ではどのような取引が主流なのでしょうか?
 CDS市場では個別の企業や国家のクレジットを取引する「シングルネーム CDS」と、これを複数集めてバスケットとして取引する「インデックス CDS」の2種類が代表的な取引ですが、日本のCDS市場で流動性が一番高いのはインデックス CDSです。インターバンク市場では、日本企業50銘柄のCDSスプレッドを単純平均したiTraxx Japanというインデックスが取引されており、取引量や取引数も多く、また、提示されるBid/Offer(買い気配/売り気配)の差も小さいことから、流動性のある取引となっています。なかでも、後述の「カレント物」が最も流動性があり、市場全体の動向を俯瞰する数値として、クレジット市場関係者は毎日その値動きを追っています。また、この数値は日本経済新聞にも掲載されています。

 日経平均などと同様に、iTraxxインデックスも構成銘柄の見直しが行なわれますが、日経平均と違って、見直し前や見直し後のインデックスは「シリーズ(Series)」として独立し、それぞれのシリーズには番号が付与されて固有の構成銘柄や取引終了日などが決められます。直近に銘柄見直しが行なわれたインデックスは「カレント物(On the Run)」と呼ばれ、2009年1月現在のカレント物であるシリーズ 10は2008年9月に構成銘柄の見直しが行なわれたものです。それ以前のシリーズ 1〜9も「Off the Run」取引として取引されていますが、カレント物に比較すると流動性はかなり低下します。また、取引年限という観点では、取引量が最も多いのは5年物の取引で、この点は通常のシングルネーム CDSでも同様です。




【本Q&Aの作成者及び作成目的】
 本Q&Aは、ISDA Japan Credit Derivatives Committee: Research Working Groupが作成したものです。

 ISDAはデリバティブに関する世界最大の任意団体であり、デリバティブの実務の発展のために各種活動を行っていますが、その一委員会であるJapan Credit Derivatives Committeeにおいては、本邦におけるクレジットデリバティブ市場の主要参加者(銀行、証券会社、保険会社、運用会社等を含み、ディーラー、投資家いずれも含みます)や弁護士等の専門家が多数集まり、クレジットデリバティブ市場における実務的な問題、リスク管理、ドキュメンテーション等について活発な議論を行っています。

 本Q&Aは、昨今の金融危機下において、各メンバーらに寄せられるCDS取引を中心とした質問や、マスコミ報道等に見られるトピック等を踏まえたうえで、CDS取引を中心としたクレジットデリバティブ市場の現状について説明するために作成したものです。(なお、本項目は2009年1月作成)

【留意事項】
(1) Q&Aに関する著作権は、著作者らにあります。
(2) 引用元をお示しいただく限り、本Q&Aの引用・批判・批評等は自由にしていただいて問題ありません。ただし、執筆者らは、引用等に係る責任を負うものではありません。
(3) 本Q&Aは解説を目的としたものであり、本邦及び各国の法律、会計、税務等についてアドバイスを行うことを目的とするものではなく、何らかの商品の投資や運用等の助言・勧誘等を目的とするものではなく、更に、執筆者らが所属する組織・団体等の意見ではなく、ISDA、Japan Credit Derivatives CommitteeないしResearchWorking Groupの公式見解でもありません。本Q&Aに含まれる記述・計算等は、あくまでも例に過ぎず、利用者によるその使用その他一切の行為に関し金融取、ISDA、Japan Credit Derivatives Committee、Research Working Group、執筆者ら、及び執筆者らの所属団体、その他の者は、何ら責任を負うものではありません。
(4) 本Q&Aに掲載されている内容については、執筆者が可能な限りの正確性を図っていますが、その内容を保証するものではありません。
(5) 本Q&A中には各種事象についての見解を記載するトピックもあり、その場合、あくまで執筆者らの「意見」を記載するものに過ぎない点はご留意下さい。
(6) 本Q&Aの内容は予告なしに変更、削除する場合がありますので、ご了承ください。