[Q1-1]
クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とはどのような取引でしょうか?
 クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)とは、信用リスクを対象とする金融派生商品であるクレジット・デリバティブの最も基本的かつ代表的な商品です。 取引の外形は「保証」や「信用保険」に類似し、補償を受ける当事者(保証でいう被保証人)は、取引の対象となる信用リスクを、補償を提供する当事者(保証でいう保証人)に移転します。 信用リスクを取引する伝統的なツールとしては、債券や融資、保証などが挙げられますが、CDSにはこれらの商品と密接なつながりがあります。

 CDSそのものは信用リスクを移転するための“道具”のひとつですが、この道具を用いて、企業や国家から証券化商品まで、幅広い種類の信用リスクを移転することが可能となります。 CDSによって移転される主な信用リスクを大まかに分類すると、以下のとおりです。

  信用リスク 一般的な名称
@ 企業など シングルネーム
CDS (コーポレート)
Wal-Mart社を参照するCDS
Nestle社を参照するCDS
A 国家、
政府関係機関など
シングルネーム
CDS(ソブリン)
日本国を参照するCDS
米国を参照するCDS
B 証券化商品など CDS on ABS a) RMBS(住宅ローンを裏付け)
b) CMBS(商業用不動産を裏付け)
c) ABS(リース債権などを裏付け)
d) ABS CDO(他の証券化商品を裏付け)
を参照とするCDS

 CDSについて議論を行なう場合、どのような信用リスクを対象とするCDSについて議論をしているのか、はっきりと認識することが重要となります。CDSのパフォーマンスは取引の対象となる信用リスクのパフォーマンスと直結し、企業の破綻が増加すれば上記表の@において、証券化商品のデフォルトが増加すればBにおいて、それぞれクレジットイベントが増加することになります。

 本Q&Aでは、ディーラー間の取引量の大部分を占める@とAのシングルネームCDS(及びこれを基にしたインデックスCDS)を中心に説明を行ない、必要に応じてBなどについても触れることとします。



[Q1-2]
典型的な現物決済型取引の構成を、具体例を挙げて説明して下さい。
 たとえば、株式会社Cの社債10億円を保有しているAが、この破綻リスク(信用リスク)を外部に移転するためにCDSを利用し、金融機関Bとの間で現物決済型のCDSを締結する場合を考えます。

 CDSの取引期間を5年、AがBに支払うプレミアム(保証料相当額)を年率2%とすると、CDSの取引期間中にC社が破綻などしなければ、AはBに対して毎年2000万円(10億円×年率2%)のプレミアムを支払うことになります。

 他方、上記取引期間である5年の間に、C社に債務不履行や破産などのクレジットイベントと呼ばれる事由が発生した場合、BにはC社の社債をAから引き渡されることを条件に、(その時点の実際の時価に関わらず)額面額の10億円を支払う義務が生じます。

 C社が破綻した場合、C社が発行する社債の価額は大幅に下落していることが予想されますが、上記CDSにより、AはC社破綻による損失を免れ、他方、Bは損失を負担することとなります。

 以上の契約を図示すると下記のようになります。



 なお、上記例ではAがC社の発行する社債を保有しているという前提ですが、社債などを保有せず債権関係のない当事者がCDSを取引することも可能です。



[Q1-3]
典型的な現金決済型取引・オークション決済型取引の構成を、具体例を挙げて説明して下さい。
 たとえば、株式会社Cの社債10億円を保有しているAが、この破綻リスク(信用リスク)を外部に移転するためにCDSを利用し、金融機関Bとの間で現金決済型ないしオークション決済型のCDSを締結する場合を考えます。

 CDSの取引期間を5年、AがBに支払うプレミアム(保証料相当額)を年率2%とすると、CDSの取引期間中にC社が破綻などしなければ、AはBに対して毎年2000万円(10億円×年率2%)のプレミアムを支払うことになります。

 他方、上記取引期間である5年の間に、C社にクレジットイベントが発生した場合、C社の社債の「時価」(契約書では最終価格と定義されています。)が一定の方式により決定され、BはAに対して、「額面額−時価」の金額を支払う義務が生じます。(現物決済と異なり、社債の引渡しなどを行う必要はありません。)

 たとえば、C社が破綻した場合で、C社の発行する額面10億円の社債の時価が3億円に減少した場合でも、上記CDSにより、7億円(10億円−3億円)の金額がBからAに支払われることにより、AはC社破綻による損失を免れ、他方、Bは損失を負担することとなります。

 以上の契約を図示すると下記のようになります。



 現金決済方式とオークション決済方式では、この「時価」の計算方式が異なります。現金決済方式では、取引当事者が個別にディーラーから価格を取得して「時価」を決定しますが、2009年以降に市場で標準的に採用されるようになったオークション決済方式では、業界全体で実施する入札において時価が計算されるます。一般に、オークション決済方式における時価の決定過程の方が透明性が高く、市場の実勢が反映されやすいと考えられます。

 このオークション決済方式については、本邦の企業数社についても実例があります。

 なお、上記図の例ではAがC社の発行する社債を保有しているという前提ですが、社債などを保有せず債権関係のない当事者がCDSを取引することも可能です。



[Q1-4]
CDSの基本的用語について簡単に説明して下さい(取引当事者など)。
 CDSの契約書は、ISDAのマスター契約(ISDA Master Agreement)やISDAの用語定義集(Credit Derivatives Definitions)などに準拠して作成されることが一般的です。取引の基本構成自体は比較的シンプルであり、標準化が進んだ現在では契約書も相当程度簡素化されています。標準化された契約内容を理解した者同士においては、共通の言語の存在によって理解の食違いが回避されるなどのメリットがありますが、他方、標準化された契約内容に慣れていない場合には、様々な専門用語がCDSの仕組みを理解する上でのハードルになることも考えられます。また、中には、用語定義集などで定義はされていないものの、多くの取引参加者に一般的に利用される用語もあります。

 ここでは、そのような用語のうち、各Q&Aに頻出するいくつかの用語を解説します。なお、詳細については各Q&Aもご参照下さい。

「プロテクションの買い手」(Protection Buyer)
 CDS契約の一方当事者であり、クレジットイベント発生時に、プロテクションの売り手から約定の金額を受け取る権利を有する当事者です。単に買い手/Buyerと言うこともあります。

「プロテクションの売り手」(Protection Seller)
 CDS契約の一方当事者であり、クレジットイベント発生時に、プロテクションの買い手に対し約定の金額を支払う義務がある当事者です。単に売り手/Sellerと言うこともあります。
 なお、プロテクションの買い手と売り手については、下記留意点をご参照下さい。

「クレジットイベント」(Credit Event、信用事由)
 CCDS契約においては、イベント対象債務にクレジットイベントが発生し、所定の手続きを経てそれが認定された場合、現物決済、現金決済、オークション決済などの決済が行われます。各取引においてクレジットイベントとしてどのような事由を指定するかは、契約当事者が自由に決定しますが、コーポレート(企業)を対象とするCDSにおいては、一部の例外(米国銘柄の取引など)を除いて、@支払不履行(Failure to Pay)、A倒産(Bankruptcy)、Bリストラクチャリング(Restructuring、債務の条件変更など)の3つのイベントを指定することが一般的です。

「参照組織」(Reference Entity)
 プロテクションの対象となる企業や国などの主体です。参照組織やそのイベント対象債務にクレジットイベントが発生した場合に、CDSのクレジットイベント決済が行われます。

「イベント対象債務」(Obligation)
 プロテクションの対象となる債務です。通常、具体的に社債の銘柄やローンの明細などを特定するのではなく、用語定義集に定められている選択肢の中から、「社債」(Bond)や「借入債務」(Borrowed Money)といった「債務の種類」と、通貨や支払優先順位といった「債務の性質」を当事者が指定します。

 たとえば、イベント対象債務として「社債」(Bond)と指定した場合、参照組織が発行する社債のうち、「債務の性質」の条件を満たしたものに対して支払不履行があった場合にクレジットイベントが認定され、クレジットイベント決済が行われることになります。なお、CDSと保証の差異の一つとして、保証の場合には一般に具体的な債務を対象として特定するのに対し、CDSの場合にはこのように社債一般やローン一般を対象とすることが可能である点が挙げられます。

 どのような債務をイベント対象債務として指定するかについての市場慣行は地域によって異なりますが、現在本邦においては、イベント対象債務として「借入債務」を指定することが市場慣行となっています。この場合、債券およびローンのほか、預金や信用状に基づく貸付などについても、イベント対象債務に含まれることになります。

「引渡可能債務」(Deliverable Obligation)
 現物決済の場合には、プロテクションの買い手はプロテクションの売り手に対して、一定の条件を満たす債権を引き渡す必要があります。現物決済においてこの引渡しの対象となりうる債権を「引渡可能債務」といいます。引渡可能債務についてもイベント対象債務同様、当事者の合意により予め用語定義集から「種類」と「性質」を選択することになりますが、日本の市場においては「種類」として「債券又はローン」(Bond or Loan)を選択することが一般的です。イベント対象債務は「借入債務」であることから、預金の不払いなどもイベントの対象となりますが、引渡可能債務は「債券又はローン」であり、預金については引渡しの対象とならないこととなります。

「クレジットイベント決済」(Settlement)
 参照組織又はそのイベント対象債務についてクレジットイベントが発生し、予め合意された所定の手続を経ることによりそれが認定された場合に、CDSの契約当事者間でなされる決済をいいます。単に「決済」というと、プレミアムの支払や、CDS契約当事者の倒産などを理由とするCDS契約の早期終了に基づく取引の解消及び清算を指すこともあるため、注意が必要です。


<留意点:プロテクションの売り手とプロテクションの買い手
 「プロテクションの売り手」と「プロテクションの買い手」については、上記のとおり、売り手が信用リスクを負担するサイドで、買い手が信用リスクを移転するサイドとなります。単に英語でSeller/Buyer、日本語訳で売り手/買い手、と呼ばれる場合も多く、また報道などにおいては、単に「CDSの買い手」「CDSの売り手」と述べられることもあるため、それぞれ「プロテクションの買い手(リスクの売り手)」を指すのか、「プロテクションの売り手(リスクの買い手)」を指すのか留意しながら読む必要があります。
 社債などの一般的な金融商品の場合、買い手が信用リスクを負担するサイド、売り手が信用リスクを移転するサイドなので、CDSは表現として逆になります。


 2007年夏頃から始まった金融危機との関連では、たとえば、欧米の投資銀行・商業銀行が組成して外部に販売せずに保有していた住宅ローン関連の証券化商品のスーパーシニア(最優先部分)のリスクについて、モノライン保険会社などからプロテクションを買った事例がありました。この場合、欧米の投資銀行・商業銀行が「プロテクションの買い手」で「投資商品の販売サイド」、モノライン保険会社などが「プロテクションの売り手」で「投資商品の購入サイド」となりますが、「モノライン保険会社が証券化商品を販売した」という表現も報道や書籍などで見受けられました。「投資商品」という観点で見るか、「プロテクション」という観点で見るかによって売り手と買い手が逆になり、表現として誤解が生じやすく、特に注意が必要です。



[Q1-5]
CDSの基本的用語について簡単に説明して下さい(クレジットイベント決済)。
 クレジットイベントが発生した場合、クレジットイベント発生の通知や同発生の認定などを経た上で、CDSのクレジットイベント決済が行なわれることになります。

 決済については、現物決済(Physical Settlement)と呼ばれる決済手段、現金決済(Cash Settlement)と呼ばれる決済手段、オークション決済(Auction Settlement)、と呼ばれる決済方式があります。いずれの方式を採用するかは、当事者がCDS契約締結時に自由に決定することが可能ですが、従前、ディーラー間などのマーケットで一般に行われるCDSにおいては、契約締結時には現物決済が採用されることが通例でした。背景としては、現物決済であれば現金決済に伴う価格評価の妥当性に疑義が出る可能性を排除できることや、保有資産に対してヘッジを行なっているプロテクションの買い手の立場では現物の引渡しを希望するケースが多いこと、プロテクションの売り手の立場では損失を一時点の価格で確定させてしまいたくないという意向が見られることなどが挙げられます。

[クレジットイベント決済の新標準(オークション決済)]
 このように、現物決済の場合には価格評価(valuation)が不要などのメリットがあり、 過去10年余りにおいては現物決済が一貫して市場のスタンダードでした。

 しかしながら、@特に決済額が小さい場合や、インデックス取引の場合、現物決済の事務の手続が煩瑣であること、ACDS契約上、プロテクションの買い手は必ずしも引渡可能債務の保有者であるとは限らず、決済のためにその債務を市場から調達してくる必要があるところ、そのような調達の需要により引渡可能債務の市場価格が急騰する可能性(ショートスクイーズの発生)に懸念が生じたこと、などから、市場では2005年頃から徐々にオークション決済が導入され、2009年のいわゆるBig BangSmall Bang以降は、オークション決済が市場のスタンダードになっています。

 この新しい決済方法においては、主要ディーラーが参加する入札(Auction)によって評価価格を決定し、この価格に基づいてすべての取引が現金決済されます。現物決済を希望する当事者は、プロテクションの売り買いを相殺して金額を最小化した上で、ディーラーに現物の売買を求めることも可能です。この方式により、@これまでの現物決済におけるショートスクイーズの発生などのデメリットが解消され、Aこれまでの現金決済における評価価格の決定の手続に伴う問題が軽減されるというメリットが期待されます。

 以下、各決済方式について、簡単に説明します。

「現物決済」(Physical Settlement)
 プロテクションの買い手がプロテクションの売り手に引渡可能債務の引渡しを行う代わりに、プロテクションの売り手がプロテクションの買い手に引渡可能債務の額面金額を交付する決済方法です。

 たとえば、図表1の例において、C社にクレジットイベントが発生した場合、C社発行の額面10億円の社債をAがBに引き渡す代わりに、BはAに対して額面金額10億円を交付することになります。


「現金決済」(Cash Settlement)
 現物決済とは異なり、債権債務を引き渡すことなく、単にプロテクションの売り手がプロテクションの買い手に現金を支払うことにより決済が行われる方式です。

 たとえば、図表1の例において、C社にクレジットイベントが発生した場合、 (予め契約で定められていた)計算代理人などがC社の社債の評価額をディーラー数社に問い合わせ、その結果100円当たり25円と評価額が決定されたとすれば、BはAに対して7.5億円(10億円×(100-25)÷100)を交付することになります。


「オークション決済」(Auction Settlement)
 主要ディーラーが参加する入札(Auction)によって評価額を決定し、この価格に基づいて、債権債務を引き渡すことなく、単にプロテクションの売り手がプロテクションの買い手に現金を支払うことにより決済が行われる方式です。他方、現物の債権の引渡しを希望する当事者は、ディーラーを相手に現物を評価額で売買することも可能です。

 たとえば、図表1の例において、C社にクレジットイベントが発生した場合、主要ディーラーの入札により評価額を決定し、その結果100円当たり25円と評価額が決定されたとすれば、BはAに対して7.5億円(10億円×(100-25)÷100)を交付することになります。(→ この結果、評価方法の違いを除き、現金決済と同様の結果になります)。  他方、仮にBが現物債権の引渡しを希望する場合、Bは主要ディーラーに対し、オークションでの評価価格(上記では25円)にて現物の売却を要請することができます。(→ この結果、BはAに対し75円、ディーラーに対し25円を支払い(合計100円)、他方、ディーラーから現物の引渡しを受けられますので、現物決済の場合と同様の結果になります。)


クレジットイベントの認定
 従来、クレジットイベントの認定はCDSの各当事者間で個別になされていました。クレジットイベントに該当すると思われる事由が発生した場合、標準的な契約においてはプロテクションの買い手又は売り手が相手に発生した事実と情報源を通知し、通知を受けた側が異を唱えない限り、その時点でクレジットイベントが認定されることになります。クレジットイベントはあくまでも契約当事者が(場合によっては、訴訟手続を通じて裁判所が)個別に認定するものであり、ISDAその他の機関が統一的にクレジットイベントの発生を認定するものではありませんでした。

 しかしながら、Big Bang後は、クレジットイベントの該当性を市場参加者で構成される委員会において議論・決定し、この決定をすべての標準的取引に統一的に適用するという制度が導入されています。

 なお、現在、市場で流通しているスタンダードなシングルネームCDSやインデックスCDSについては上記の処理がなされることが一般的ですが、かかる取扱いがなされないCDSも存在し(流通ボリュームが少ない、非典型的取引、当事者のBig Bangプロトコルの不採用など)、その場合、クレジットイベントの認定は従前どおりCDSの各当事者間で個別になされることになります。



[Q1-6]
日本のインターバンク市場ではどのような取引が主流なのでしょうか?
 CDS市場では個別の企業や国家のクレジットを取引する「シングルネーム CDS」と、これを複数集めてバスケットとして取引する「インデックス CDS」の2種類が代表的な取引ですが、日本のCDS市場で流動性が一番高いのはインデックス CDSです。インターバンク市場では、日本企業50銘柄のCDSスプレッドを単純平均したiTraxx Japanというインデックスが取引されており、取引量や取引数も多く、また、提示されるBid/Offer(買い気配/売り気配)の差も小さいことから、流動性のある取引となっています。なかでも、後述の「カレント物」が最も流動性があり、市場全体の動向を俯瞰する数値として、クレジット市場関係者は毎日その値動きを追っています。また、この数値は日本経済新聞にも掲載されています。

 日経平均などと同様に、iTraxxインデックスも構成銘柄が定期的に見直されますが、日経平均と違って、見直し前や見直し後のインデックスは「シリーズ(Series)」として独立し、それぞれのシリーズには番号が付与されて固有の構成銘柄や取引終了日などが決められます。直近に銘柄見直しが行われたインデックスは「カレント物(On the Run)」と呼ばれ、2011年1月現在のカレント物であるシリーズ 14は2010年9月に構成銘柄の見直しが行われたものです。それ以前のシリーズ 1〜13もオフ・ザ・ラン(Off the Run)」として取引されていますが、通常はカレント物(On the Run)へのロール(乗り換え)取引が行われることから、ポジションがカレント物へ移行され、その後のオフ・ザ・ランはカレント物に比較すると流動性はかなり低下します。また、取引年限という観点では、取引量が最も多いのは5年物の取引で、この点は通常のシングルネーム CDSでも同様です。


[Q1-7]
インデックスCDSとはどのようなものでしょうか?
 インデックスCDSとは、複数の単一銘柄を参照するCDSの市場価格(スプレッド)を指数としたものです。当初は市場価格の水準や動向を示す指標の役割のみを果たしていましたが、@クレジットに対して分散投資したい、A今後予想されるクレジットスプレッドの拡大に備えてマクロ的なヘッジがしたい、といったニーズから、現在はインデックスCDSを参照した取引が活発に行われるようになっています。インデックスCDSの価格については「インデックスCDSの価格と個別銘柄のCDS価格の間の関係について教えてください。」で詳しく説明しますが、理論的には、インデックスCDSを構成するCDSの単純平均スプレッドとなります。

 インデックスCDSの種類はいくつかありますが(「インデックスCDSの種類にはどのようなものがあるのでしょうか。またそれぞれのインデックスCDSの特徴について教えてください。」参照)、メイン・インデックスは、いずれも市場における流動性の高い投資適格銘柄(例:日本は50銘柄、欧米は125銘柄)から構成されます。毎年2回、3月20日と9月20日のインデックス開始日の直前に新しいシリーズが作成され、3月20日に開始するインデックスの予定終了日は6月20日、9月20日開始分については12月20日に設定されます。例えば、2010年9月20日に開始する5年のシリーズの予定終了日は、2015年12月20日と設定されます。

 ここでは、日本のメイン・インデックスに焦点を当てて、詳しく構成銘柄の決定プロセスについて説明します。日本のメイン・インデックスであるMarkit iTraxx Japanの構成銘柄は日本の企業が主体であり、Moody’s、S&P、Fitch、R&Iの4社の格付けのうち最も高い格付けが投資適格級であることが要求されます。インデックス組成に参加するディーラーは直近6ヶ月の取引量を報告し、この中から流動性が高いものがインデックス構成銘柄として選定されます(ただし、極端にプレミアムが高い銘柄(例:2000bp)は候補から外れることもあります。)。選定に当たっては、業種の偏りを軽減するために、一業種の銘柄が10社を超えないという制約が課されています。

 上記のように、インデックスCDSの新しいシリーズは年に2回ローンチされ、新しいシリーズのインデックス開始日以降、市場における取引の中心は直前のシリーズから新シリーズへと移行します。新シリーズは「オン・ザ・ラン」又は「カレント」、旧シリーズは「オフ・ザ・ラン」と一般的に呼ばれています。新シリーズを参照する取引が始まっても旧シリーズを参照する取引も行われますが、その流動性は著しく低下します。したがって、トレーディング目的で売買する場合など、旧シリーズのCDS取引を反対売買によって手仕舞い、新たに新シリーズを参照する取引を行うニーズが発生します。この為、新シリーズがローンチすると、例えばシリーズS13とS14のスイッチ取引のスプレッドがクォートされるようになります。また、新シリーズのプライスについては、完全に構成銘柄に変化がないと仮定すると、一般的に新シリーズのほうが、スプレッドが大きくなります。理由としましては、@ロールによって年限が延びるため(一般にクレジット・スプレッドカーブの形状が右肩上がりのため)、A一般にキャリー狙いで満期まで保有を考えているプロテクションの売り手よりも、中途での反対売買を意識するプロテクションの買い手の方が、流動性の観点からロールのニーズが強いため、といったことが考えられます。


[Q1-8]
インデックスCDSの種類にはどのようなものがあるのでしょうか。またそれぞれのインデックスCDSの特徴について教えてください。
 市場参加者の多様なニーズを満たすべく、地域や格付け・業種などといった参照組織の属性毎に様々なインデックスやサブインデックスが作られています。以下、代表的なものを紹介します。

【 コーポレート関連 】
投資適格級銘柄から構成されるインデックスCDS(IG(Investment Grade) 又はメイン)
iTraxx Europe(欧州の投資適格級125銘柄)
CDX.NA.IG(米国の投資適格級125銘柄)
iTraxx Japan(日本の投資適格級50銘柄)
iTraxx Asia ex Japan(日本以外のアジア地域の50銘柄)
iTraxx Australia(オーストラリアの投資適格級25銘柄) など

投資適格級を下回る格付けの付与された銘柄から構成されるインデックスCDS(Crossover:Xover)
iTraxx Crossover(欧州の投資適格級を下回る格付けが付与され取引量の多い50銘柄)
CDX.NA.HY(北米の投機的階級100銘柄) など

ボラティリティが高い銘柄から構成されるインデックスCDS(High Volatility:HiVol)
iTraxx Europe HiVol(iTraxx Europe125銘柄の中のボラティリティの高い30銘柄で構成されるインデックス)
CDX.NA.IG.HVol(CDX125銘柄の中のボラティリティの高い30銘柄で構成されるインデックス) など

産業セクターごとに構成されるインデックスCDS
iTraxx Europe Autos(欧州の自動車関連銘柄で構成されるインデックス)
iTraxx Europe Senior Financials(欧州の銀行・保険(シニア)25銘柄で構成されるインデックス) など

【 ソブリン関連 】
 これまで説明してきたインデックスCDSは、企業を参照した銘柄で構成されたものですが、ソブリンCDSで構成されるインデックスCDS取引も近年始まりました。代表的なものとして挙げられる、西ヨーロッパと北欧諸国のソブリンCDS15銘柄から構成されたiTraxx Sovx Western Europeは2009年7月にローンチされ、2009年末より顕在化してきた欧州ソブリン危機の影響をうけて取引が急増しています。以下その他にローンチされているインデックスCDSを紹介します。

ソブリンCDSから構成されるインデックスCDS(SovX)
iTraxx SovX CEEMEA(中東欧・アフリカ諸国のソブリンCDS15銘柄)
iTraxx SovX Asia Pacific(アジア・オセアニア諸国のソブリンCDS10銘柄)
iTraxx SovX G7(G7のソブリンCDS10銘柄) など
WE、CEEMEA、AsiaPacificは実際に取引可能ですが、G7は指標性を持つのみ、となっています。など



[Q1-9]
インデックスCDSの構成銘柄にクレジットイベントが発生した場合の決済プロセスについて教えてください。
 インデックスCDS構成銘柄のポートフォリオは、一部の例外を除き(例:iTraxx SovX CEEMEA(銘柄ごとに構成比率が異なる))、各銘柄を均等に積み重ねたプロラタ型であり、単一銘柄を独立に取引した場合と同じリスクを負担することとなります。したがって、参照組織にクレジットイベントが発生した場合、該当の参照組織に対応する元本分だけが、クレジットイベントの対象となり、その銘柄に対応する想定元本についてクレジットイベント決済が行われます。その後は、イベントが発生していない銘柄に相当する元本金額について取引が継続します。ただし、クレジットイベントとしてリストラクチャリング(典型例:私的合意による債権放棄)が認定された場合、イベントの発生後にバンクラプシー(典型例:会社更生法適用申請)などが発生する可能性が意識され、買い手と売り手の両者ともにリストラクチャリングをもってクレジットイベントとしてトリガーを引かない場合が想定されるため、クレジットイベント対象の参照組織を含む旧バージョンが依然として取引されることになります。

(例)
元本金額:10億円
参照:日本企業50銘柄から構成されるインデックス(iTraxx Japan)
各銘柄に対する元本金額:それぞれ2,000万円
クレジットイベント決済:<銘柄#1にクレジットイベントの発生認定>
  @銘柄#1 2,000万円分決済
  Aインデックス取引は9億8,000万円に減額されて継続


[Q1-10]
インデックスCDSの価格と個別銘柄のCDS価格の間の関係について教えてください。
 インデックスCDSの公正価値は、インデックスCDSを構成する個別銘柄CDSの単純平均と等しくなります。(経済効果の観点からは倒産確率を考慮して単純平均を調整する必要があります。)
⇒(ご参考)Markit理論価格(Markit iTraxx Index Pricing)

 しかしながら、実際にはインデックスCDS価格とインデックスCDS理論値が乖離する場合が多々あり、この乖離幅をスキュー(skew)又はベーシス(basis)と呼びます。

 スキューの生じる要因はいくつか考えられます。例えば、個別銘柄の流動性が低くオファービットが広いためにアービトラージが成立しない場合、インデックスCDSと個別銘柄CDSの年限に違いがある場合及びなどです。また、インデックスCDSは流動性が高いためマクロ経済的要因に対して個別銘柄に先行して反応する傾向があります。この傾向もスキューの要因となります。




【本Q&Aの作成者及び作成目的】
 本Q&Aは、ISDA Japan Credit Derivatives Committee: Research Working Groupが作成したものです。

 ISDAはデリバティブに関する世界最大の任意団体であり、デリバティブの実務の発展のために各種活動を行っていますが、その一委員会であるJapan Credit Derivatives Committeeにおいては、本邦におけるクレジットデリバティブ市場の主要参加者(銀行、証券会社、保険会社、運用会社等を含み、ディーラー、投資家いずれも含みます)や弁護士等の専門家が多数集まり、クレジットデリバティブ市場における実務的な問題、リスク管理、ドキュメンテーション等について活発な議論を行っています。

 本Q&Aは、2007年夏頃に始まった金融危機下において、各メンバーらに寄せられるCDS取引を中心とした質問や、マスコミ報道等に見られるトピック等を踏まえたうえで、CDS取引を中心としたクレジットデリバティブ市場の現状について説明するために作成したものです。(なお、本項目は2009年1月作成、2011年1月改訂)

【留意事項】
(1) Q&Aに関する著作権は、ISDA Japan Credit Derivatives Committee Research Working Groupにあります。
(2) 引用元をお示しいただく限り、本Q&Aの引用・批判・批評等は自由にしていただいて問題ありません。ただし、執筆者らは、引用等に係る責任を負うものではありません。
(3) 本Q&Aは解説を目的としたものであり、本邦及び各国の法律、会計、税務等についてアドバイスを行うことを目的とするものではなく、何らかの商品の投資や運用等の助言・勧誘等を目的とするものではなく、更に、執筆者らが所属する組織・団体等の意見ではなく、ISDA、Japan Credit Derivatives CommitteeないしResearch Working Groupの公式見解でもありません。本Q&Aに含まれる記述・計算等は、あくまでも例に過ぎず、利用者によるその使用その他一切の行為に関し金融取、ISDA、Japan Credit Derivatives Committee、Research Working Group、執筆者ら、及び執筆者らの所属団体、その他の者は、何ら責任を負うものではありません。
(4) 本Q&Aに掲載されている内容については、執筆者が可能な限りの正確性を図っていますが、その内容を保証するものではありません。
(5) 本Q&A中には各種事象についての見解を記載するトピックもあり、その場合、あくまで執筆者らの「意見」を記載するものに過ぎない点はご留意下さい。
(6) 本Q&Aの内容は予告なしに変更、削除する場合がありますので、ご了承ください。